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懐かしマンガ その8 『H2』 ※ネタバレ注意 [コミック]

実は結構前に読んで感想も書いていたのだが、なんとなく最後まで書き切れずに下書き状態で放置していたこのマンガ。

『H2』(作/あだち充)
 連載『週刊少年サンデー』1992年32号~1999年50号
 (少年サンデーコミックスワイド版 全17巻)

みなさん知っているだろうけど、一応説明。
千川高校のエース国見比呂と、親友でライバルの明和第一高校の4番打者橘英雄。
比呂の幼馴染で英雄の彼女である雨宮ひかり、千川高校野球部マネージャーの古賀春華。
4人の青春を描く。
野球と恋愛をからめるあだち充得意のパターン。

この作品を読むのは、サンデー連載時に読んで以来数十年振り2度目。
ストーリーは結構忘れていた、というか、そもそもサンデーを読んでない時期もあったかもしれない。
なので、面白かったかどうかもあまり記憶になく、結末にいたっては完全に忘れていた。

で、今回読んで最初に思ったこと。

「読むんじゃなかった」

いや、面白くなかった、ということではない。
それどころか、非常に面白かった。
うまく言えないが、あだち充らしさ全開で、こりゃ『タッチ』よりよくできてる作品だと思った。

で、なぜ読むんじゃなかったと思ったのか。
それはこの作品が、主人公比呂の初恋がかなわずに終わる哀しい「失恋の物語」だったからだ。

先程4人の主要人物を紹介したが、この物語の主人公は明らかに比呂である。
『H2』というタイトルに騙されてはいけない。
宣伝ページのあおり文句に騙されてはいけない。
比呂と英雄の位置づけは明らかに違う。
コミックスの背表紙に載っている顔が全巻比呂であることからもわかる。
そして、ヒロインはひかりである。

さらに言うなら、春華は4人の中では一段低い扱いを受けている。
この4人は決して四角関係にはならず、比呂、ひかり、英雄の三角関係がまずあり、春華は比呂と1本の線で繋がっているに過ぎないと言ってよい。

また、ひかりは、あくまで英雄の彼女であるが、読者にとっては、この二人の関係が恋人同士としてはどこかぎこちなく見えるように描かれている。
その一方で、幼馴染である比呂とひかりの間には、英雄でさえ踏み込めない、深い絆があるようにも見える。

そもそも英雄とひかりがつきあい始めたのは、比呂が英雄をひかりに紹介したからなのだが、成長の遅かった比呂はまだ恋愛感情というものがよくわかっていなかった。
ひかりへの恋愛感情を自覚した時にはすでにひかりは英雄とつきあっていた。

物語が進むにつれて、比呂が幼馴染のひかりに対して思いを寄せていることが明らかになってくる。
そしてそれが自身の初恋だったことが、ひかりに対し比呂自身の口から語られる。
それまで試合に負けたことのなかったひかりの誕生日に負けてしまった比呂は静かに悔し涙を流し、ひかりにやさしく抱きしめられる。

そのひかりも、比呂に対して、単なる幼馴染としては割り切れない複雑な思いを持っているように思われる。
それは、英雄とのキスを比呂に見られた(と思った)瞬間に英雄を突き放すシーンでもわかる。
また、ひかりの母が亡くなったときなど、英雄では埋められない心の隙間を比呂によって埋められることもしばしばあり、英雄への思いに自信が持てず、比呂との間で揺れ動くようにも思える姿が描かれる。
読者にとっては、ひかりが比呂への未練を持っているのではないかと想起させるような描写だ。
この辺の微妙な心象風景の描き方こそ、あだち充の面目躍如だと思う。

自分が入れない部分があるようなひかりと比呂の関係は、英雄が、自分に対するひかりの想いを自信を持って肯定することができなくなるような状況をつくってしまい、最終的には、自分と比呂との対戦を見て自分か比呂かを選べとひかりに告げることに至ってしまう。

そんな状況で、夏の甲子園準決勝で比呂と英雄が対戦。
比呂は、あえて英雄に対し自分はひかりのことが大好きだと公言。
そして、試合も二人の対戦も比呂が勝つが、その目には涙が。
それはもちろん嬉し涙であるはずなく、試合の勝敗とは関係なしに、ひかりが英雄のもとへと行ってしまうことをはっきりと自覚した、恋の終わりを告げる哀しみの涙だった。

試合を見ていたひかりも涙し、ようやく自分の本当の気持ちが最初から英雄に向いていたことに気づかされ、英雄のもとへと「戻る」。

比呂、ひかりの二人の涙は、これまでと同じ幼馴染の関係を続けることができなくなってしまったこと、二人の決別に対する涙だったのではないか。
というのは、これは自分の想像なのだが、この試合以降(すなわちこの作品では描かれてない)、それまでよく言えば気安い仲、悪く言えば「なあなあ」だった比呂、ひかり、英雄の関係が崩れて、もとの3人には戻れなくなったのだと思う。

ある意味比呂とひかりを結び付けていたキーパーソンだったひかりの母もこの世を去り、ひかりは女として英雄のもとへ行った。
比呂は完全に振られたのである。

試合に勝った比呂たちは宿舎でカラオケ大会、ゆずの「夏色」を歌う比呂。
後ろ姿で描かれる比呂は何を思うのか。

『タッチ』を超える長期連載となったこの作品、当然というべきかアニメ化されたが、こちらは『タッチ』のようには上手くいかなかった。
和也の死という悲劇があるとはいえ、『タッチ』はまだ爽やかで、恋が成就する物語である。
対して『H2』は、悪く言えばドロドロの三角関係をひたすら描いているわけだから、テレビを見ていて高揚感のようなものを感じるのも難しいと思うし、しかも最後は失恋だ。
もっとも、アニメは最後のシーンを迎えることなく放送が終わってしまったが。

そんなわけで、確かに面白かったのだが、また読みたいかというと、ちょっと考えちゃう作品だった。
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コメント 4

middrinn

途中までしか読んでなかったので、拝読させて頂くと、
読みたくないですね(^_^;) 結末が悲恋とか別離とか
好きじゃないんで(^_^;) 『タッチ』の表題の意味も
去年ぐらいに知った小生、ひかり、春華もイニシャル
がHなので、もしやと思い、wikiを見たら、『H2』は
ヒロインの意もあったとは( ̄◇ ̄;) 4人の関係分析は
ナルホドと思いましたが、「背表紙に載っている顔」、
本の背文字の上に描かれた顔のことだと思いますが、
『さすがの猿飛』全7巻は全て霧賀魔子ですよ(^_^;)
by middrinn (2020-01-15 12:40) 

enokorogusa

「肉丸くぅ~ん!」
思わず島津冴子ボイスで脳内再生してしまいましたよ。
なるほど「背表紙の顔=主人公」は一般則としては成り立たないということですね(^^;)
by enokorogusa (2020-01-15 18:38) 

燃焼豚

H2はアニメ以外は全く記憶にございません。そんな最後でしたが、たぶんあだち先生は二番煎じはしたくなかったんでしょうね。あだち先生は結構容赦しない内容を書きますからね。
by 燃焼豚 (2020-01-18 19:42) 

enokorogusa

シリアスな展開や人の死を平気で?ぶっ込んできますからね。
あのホンワカした絵柄に騙されてはいけないですね(^^;)
by enokorogusa (2020-01-18 20:40) 

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