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天文学の真のブレイクスルーとは? コペルニクス、ブラーエ、ケプラー [読書]

そもそもダーティペアとスポーツを中心としていながら最近迷走中の当ブログ。
今回はなんと科学史に挑戦。大丈夫か?

今回紹介するのはこの本。

 中公新書『科学史年表』(著・小山慶太)
     (以下、太字はこの本からの引用)

さて、「コペルニクス的転回」という言葉を聞いたことがある方は多いと思う。
それまで当たり前に思われていたことが実は違った、というときに引用されたりする。

そのコペルニクスとは、もちろん、いわゆる「地動説」をとなえた16世紀の人間だ。
中世ヨーロッパでは、地球が宇宙の中心にあるという「天動説」が多くの人間に信じられ、また権威ある教会が強力に支持をしていた。
コペルニクスはそんな社会の中で、「天動説」は間違いで「地動説」が正しいと書き残した。
後年、その考えが正しいことが証明され(たかに思え)、偉大なる科学者として認知されるようになった。
少なくとも、現在の日本では一般にコペルニクスの功績がそのように認知されているように自分は感じる。

しかし、冷静に史実を見つめると、「地動説」は決してコペルニクスのオリジナルではなく、紀元前にすでにかなり高度なレベルで「地動説」は唱えられていた。

コペルニクスは『天球の回転について』(1543年)の冒頭で、わざわざ、実名を列挙し、ギリシア時代すでに、地球が動いていると唱えた哲学者たちがいたことを強調している。

時代はやや下ってコペルニクスの死後、16世紀後半、ひとりの天文観測家が、肉眼での観測としてはこれ以上ないという精度の天文観測記録をつけていた(当時望遠鏡はまだ発明されていない)。
その名はティコ・ブラーエ。

その観測記録は、天動説を否定した方がよほど正確に説明できるものだったが、彼は決して天動説を否定することはなかった。

ただし、地球は不動としたものの、他の惑星は地球ではなく太陽の周りを回転すると、彼は考えたのである。つまり、太陽は諸惑星を引き連れながら、地球の周りをまわっているというわけである。それは現代の我々から見ると、天動説と地動説の奇妙な融合体のように映る。

1600年、その精緻な観測記録を研究の材料にしようとブラーエのもとへやってきたのが若きヨハネス・ケプラーである。
そしてブラーエは、まるでケプラーに後は託したと言わんばかりに、翌年亡くなってしまう。

ケプラーは、ブラーエが遺した当時最高レベルの観測記録をもとに、地動説を説明しようと試みていた。
当初は古い哲学的要素を持った、多面体と球体によって惑星軌道を説明しようとしたケプラーだったが、どうしてもブラーエの観測記録と合わなくなってしまう。
ここでケプラーが凄いのは、観測記録という「事実」を決して捨てることなく、もう一度、初心に帰って観測記録を説明できる別の法則の研究に取り組んだことだ。

そして、ついにたどり着いたのが、地球(惑星)は太陽を焦点のひとつとする「楕円」軌道を描く、という、いわゆるケプラーの第1法則である。

これだけだと「知ってるよ、それが何が?」と思われるかもしれないが、ここに偉大な「ブレイクスルー」があるのだ。

天動説はもとより、コペルニクスの地動説も、また、ティコの折衷案のような宇宙体系においても、押し並べて天体は円軌道を描くものと信じ込まれていた。人間は古代からそういう固定観念に縛られつづけており、地球の不動性に疑問を投げかける者はいても、円軌道を疑う者など一人もいなかったのである。

もちろん、ケプラーも当初は円軌道で説明しようと試みたがやはりどうしても観測結果と合わないのだ。
ここでまたもやケプラーは、あくまでブラーエの残した記録を信じ、ついに「円」という呪縛からときはなたれ、「楕円」軌道という、正しい法則へとたどりついたのだ。

円軌道を温存した地動説の提唱より、ケプラーが発見した経験則の方がむしろ、歴史の中で“コペルニクス的転回”と形容するにふさわしい

当時、ケプラーと同時代に生きて、同じく地動説を強硬に主張したあのガリレオ・ガリレイですら、この「楕円」に反対を唱えたということからも、このケプラーの考えがいかにエポックメイキングだったか、ということがしのばれる。

ケプラーの発見から、惑星はなぜ円軌道ではなく、よりにもよって楕円軌道上をまわるのかという問いかけが自然に発生し、焦点に位置する太陽の何らかの作用が、すべての惑星の動きを支配しているのではないかという思いに駆られ

ここに、力学が生まれる土壌が形成されたのである

ケプラーの法則は、ニュートン力学誕生へ向けた偉大なブレーク・スルーとなった

いかにこれまでの通念や常識と違っていても、観測された結果(事実)をもとにその現象を正しく説明できる法則をとなえたケプラー。
その姿勢はまさしく「科学者」というにふさわしい。

正しくは「ケプラー的転回」というべきじゃないかと思う。

自分は以前から、ケプラーの功績が過小評価されていると思っていたので、このような書籍が発行されたことがとても嬉しい。
天文学や科学史に少しでも興味がある方は、ぜひ手に取って読んでみてほしい。

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middrinn

小山慶太は名文・美文ですよねぇ(〃'∇'〃)
村上陽一郎と並び科学史では双璧かと^_^;
by middrinn (2018-06-23 18:44) 

enokorogusa

>middrinnさん

その筋では著名な方なんですね。
恥ずかしながら存じませんでした。
別の本も探してみようかと思います。


by enokorogusa (2018-06-24 15:43) 

middrinn

小山慶太は何冊か持ってますけど、
『神さまはサイコロ遊びをしたか』
講談社学術文庫とか『道楽科学者
列伝』中公新書などは面白い上に
文章が巧いです(^^) 村上陽一郎の
叙述は優雅で、名文家の科学史家
として双璧と思いますが、科学史家
としての学識の話ではないです^_^;
この本は小生は未読でしたので、また
御紹介を愉しみにしております(^^)
by middrinn (2018-06-24 19:24) 

enokorogusa

>middrinnさん

『神さまはサイコロ遊びをしたか』と『道楽科学者列伝』は地元の図書館にありました。
その他小山慶太の著書や村上陽一郎も図書館に結構あるようなので、ちょっと時間をみて読んでみようと思います。

by enokorogusa (2018-06-25 18:00) 

燃焼豚

天文学は授業で習った程度だが、こういう記事を見ると読める機会があればと思う。
by 燃焼豚 (2018-10-13 19:43) 

enokorogusa

こちらの本は、科学史について、年順にトピックスをひとつずつ、
多くは半ページほどの短い文章で著しているのでとても読みやすいです。
by enokorogusa (2018-10-14 15:28) 

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