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「それでも町は廻っている」さわやかな読後感 [コミック]

このブログでコミックを取り上げるのはこれが初めてだと思う。
(アニメの「メジャー」は記事にしたが)

「それでも町は廻っている」(石黒正数・作)は『ヤングキングアワーズ』(少年画報社)にて、2005年5月号から2016年12月号まで連載。
単行本は全16巻で、最終巻は今年の2月に発売された。
2010年にはアニメ化された。

自分はアニメで初めてこの作品を知ったのだが、とても面白くて、近所のレンタルコミックで1巻から読み始めた(買えよ!)。

舞台は東京のとある下町。
メイド喫茶とは名ばかりの、ばあちゃんが経営する喫茶店シーサイド。
そこでバイトをしている嵐山歩鳥は私立探偵を夢見る、ミステリー小説好きの高校生。
歩鳥の幼馴染の男子、真田広章に好意を寄せる、バイト仲間のタッツンこと辰野俊子。
二人の先輩で金髪パンクベーシストの紺双葉。
歩鳥の弟で利発な小学生タケルと、同じく妹で天真爛漫破天荒なユキコ。
そのほか下町商店街の面々や高校の友人たちや先生など・・・

登場する人物は非常に多岐にわたる。
その人々の、日常の他愛もないできごとから、宇宙人が出てくるような非現実的なエピソードまで幅広く、基本1話完結方式で描いている。

この作品の面白いところは、連載が必ずしも時系列順に描かれているわけでなく、かといっていわゆる「サザエさん時空」のように同じ学年で季節を繰り返すのでもなく、連載を通じて作品内時間を行ったり来たりしながら描かれているところだ。
なるほどたしかにこの方法だと、作品内の3年間のできごとを作者曰く365日×3年分描くことができる。

ただし、伏線の張り方や、以前に描いた内容と齟齬をきたさないようにするためには、綿密な構成が必要になる。
これらをクリアして長期連載を行っていた作者の構成力はすごい。
とても頭のよい人でないとできないことだと思う。

そして、彼女らが暮らす日々の一場面を切り取ったそのストーリーは、リアリティに富んでいて、なのになぜか特別な一日のように描かれている。
まさに「それでも町は廻っている」のだ。
それは、作者の鋭い人間観察力からくる、登場人物の言動の細かい描写が大きな要因となっているのだと思う。
大人には大人の、子供には子供の、また、各登場人物それぞれの性格について、ほとんど登場しないような人物にまで、表には直接描かれないけれど細かい設定を設け、こういう人物ならこういう言動をするだろう、ということを考えて描かれている。
なので、人物の言動にブレがなく、読んでいて違和感を感じることがまず無い。

また、登場人物の人間関係の描写も非常に大事にしている。
例えば、主人公の歩鳥と同じバイト仲間の辰野俊子との関係も、最初はお互い「辰野さん」「嵐山さん」で呼んでいるのが、付き合いが長くなるにつれ、「タッツン」「歩鳥」と呼び方がかわっていく。
しかし、二人はバイト仲間で友人でクラスメイトでもあるが、決していつもいっしょに行動するわけでもなく、むしろ歩鳥は先輩の紺双葉と年齢を超えた親友となる。
そして、タッツンとは微妙な距離感をお互い持ちつつも、時間をかけて、やがて親友と呼べる関係へと変わっていくのだ。

自分は、結構この「名前呼び」にこだわるタイプだ。
出会っていきなりや、あまり親しくないのに、下の名前で呼び合うようになったりするのはとても不自然な感じがする。
この作品は、そのような不自然さを極力排除しているのも、自分の好きなところだ。
ちなみに「メジャー」でも、小学生のときに友人だった清水や小森などが、再会時に吾郎の姓が茂野に変わっっていても、相変わらず「本田(君)」と旧姓で呼んでいるのが自然でいいことだと思う。

その他、面白さと真面目さが同居している主人公、歩鳥の魅力などいろいろな特徴があるのだが、自分の力では書ききれない。
ぜひ、読んでみてほしい。
なんとも言えない爽やかな読後感が残ると思う。

で、この間、しばらくブログの更新が止まっていたのは、実は、この作品を読んでいたからなのだ。
家が狭いので、極力物を買わない生活をしていたこともあって、コミックも買わずにいたのだが、結局全巻まとめ買いをしてしまったのだ。
最終巻とほぼ同時に刊行された公式ガイドブック「それ町廻覧板」もいっしょに。
このガイドブックには、全話について作者のコメントが載っていて、シャッフルされていたエピソードを時系列に整理した年表もある。
で、その年表通りの順番で読み直して、作者コメントも読んでいたのだが、これが思いの外時間がかかった。
ある巻のある話を読んだら、次は別の巻の話へ、ということを最初から最後までしていたら、ブログを更新する暇がなかったのだ。
昨晩、ようやく読み終えたので今こうして記事を書いている、ということになった。
しかし、時系列で読んだことで、さらにこの作品の面白さが増した。
もちろん、普通に1巻から読んでも面白い。
重ねてになるが、興味があったら手にとってみてほしい。


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